HPにも公表いたしましたが、本年3月に母校の京都大学より博士(経営科学)の学位を拝受いたしました。コロナ禍も含めた3年間、空いた時間を研究作業に集中し、何とか予定通り取得することが出来ました。経営に関することでは、よくMBA(master of business administration)の名前をお聞きになるとは思いますが、経営科学博士は、MBAより上位のDBA(doctor of business administration)に位置付けられます。京都大学経営管理大学院では、社会人向けのMBAのコースもありますので、ご興味がある方は、是非ともチャレンジしていただければと思います。とても勉強になり、これからの人生にとって有意義なものになること間違いないと思います。
私は工学出身者であり、建設コンサルタントのエンジニアですので、本来は工学で学位を取るべきかとも思いましたが、現在の職務状況は、経営マネジメントに集中していることや、エンジニアと経営学者の双方の特徴を持ち合わせることの方が、今後のNiXグループの経営にとってより有用ではないかと思い、経営科学での取得を志しました。従って、研究内容も工学の分野に経営科学の視座を付加した内容であり、交通工学と社会心理学、経営科学におけるモチベーション理論を融合した内容としてまとめさせていただきました。
論文タイトルは「エコ通勤とワークモチベーションに着目した地域企業の社会的要請と経営的要請の両立可能性に関する研究」と聊か長いタイトルですが、要は地域の社会課題解決と企業経営の相関を論理的に説明することで、エコ通勤の推進を企業経営にとっての合理的選択手段と位置付けると、いうものです。研究手法や内容はやや複雑なので、本ブログでは、その背景について簡単に述べたいと思います。
人口減少時代の地方都市のあるべき姿として、公共交通を中心とした拠点集中型の都市経営が、改正都市再生特別法によって推進されています。しかしながら、地方都市においては、企業は郊外に立地しがちであり、自動車通勤の分担率も、80%以上となる地域もあります。このような過度な自動車依存が、公共交通の衰退を招き、拠点集中型の都市経営を阻害し、ひいては地方都市の持続可能性を低下させることになっています。
政府はこのような状況から、エコ通勤の推進に取り組んでおり、次のように述べています。「クルマによる通勤をはじめとする交通は、周辺地域の渋滞問題や地球温暖化等、様々な問題の原因となり得ます。事業所の社会的責任の観点からも、また、各事業所の効率的な経営の観点からも、より望ましい通勤交通のあり方を模索していくことが望ましいと言えるかもしれません。エコ通勤とは、このような背景のもと、各事業所が主体的に、より望ましい通勤交通のあり方を考える取り組みです。」
すなわち、各企業が「社会的責任の観点(CSR)」と「効率的な経営の観点」から取り組むべきということですが、地方の企業にとって、エコ通勤の推進は効率的な経営とトレードオフになってしまいます。なぜなら、地方の企業は郊外に立地している場合が多く、その立地特性によりオフィスや工場立地の初期コストを抑制できるという経済的なメリットを享受しており、また、その立地特性が従業員にとってもクルマ通勤の利便性を向上させています。またクルマ通勤を前提としたライフスタイルは、従業員の住居の立地においても地価の低い郊外を選好することにもつながります。このような背景から、地域の企業がエコ通勤に自主的に取り組むには「エコ通勤への取り組み」と企業の「経済価値向上」の相関関係が、より明瞭になることが必要だと考え、本研究に至ったわけです。
そして、研究の中心命題を「地域企業において,エコ通勤への態度とワークモチベーションの双方が向上する可能性がある.すなわち,地方都市の重要な取り組みであるエコ通勤推進において,地域企業の社会的要請と経営的要請の両立が可能となる.」とし、ワークモチベーションを企業業績の指標の一部とみなし、エコ通勤の推進という社会課題の取り組みにおいて、先述したCSR等の利他的精神の発露でなく、合理的な経済活動としての選択の可能性を科学的に分析してきました。
論文については、一部(4章)がグローバルビジネス学会誌に掲載されていますので、ご興味がある方はご覧ください。また一般的に、地域企業は地域資源への依存度が大きく、地域社会と共存共栄の関係にある場合が多く、自社の成長において、地域資源の充実や地域の発展が大きなウェイトを占めていると考えられます。しかるに、地域社会課題の解決を企業自ら率先して取り組むことは、結果的に企業の営利活動の持続可能性を高めることになる、とも言えるのです。
我々NiXは、たまたま本社が地方都市富山市にあることと、社会インフラコンサルタントという立場も相まって、上記課題を常に意識し、また、業務としても取り組んでくることが出来ました。郊外から富山駅への本社移転もそのような意識があったからであり、本社移転は社会心理学の上では、構造的方略にあたり、地域社会課題への意識を共有することは、心理的方略にあたります。特に構造的方略の効果は大きく、移転前に比べ、約3割の社員がマイカーからエコ通勤に転換を果たしました。駅周辺への本社移転は大きな投資をともないますが、上記の考えがあるからこそ、躊躇なく迅速に実行できたものと考えられ、今後の地域企業経営において、このような行動は必要であると考えます。
今後はこのブログ内で、論文の論点を少しづつご紹介していこうと思います。
NiX JAPAN 株式会社 | NiX 管理本部 経営企画管理グループ