3.駅周辺立地の優位性
私は学術研究では、公共交通の利用と企業業績との関係を探求し、その両立には地域を良くしようとする地域志向的モチベーションが仲介することを示しました。さらに、駅に近いオフィスで働く人々の地域志向的モチベーションが高いことも示しました[1]。また、スポーツ科学の研究分野では、地域プロスポーツへの支持と地域志向的モチベーションとの間に正の相関があることが示されています。この関係性を踏まえ、駅前にスタジアムを整備することで、まちが活性化し、オフィスが集積し、結果として企業業績が向上し、公共交通の利用促進にもつながる構造が形成されると考えられます(図-3)。
図-3 駅とスタジアムの関係(仮説)
この構造は、すべての要素を統計的に解析していないため仮説に過ぎませんが、多機能複合型まちなかスタジアムが地方都市の中心部の活性化に果たす役割は大きく、積極的な活用が望まれます。
4.スタジアム整備に必要な思考の軸
これまでの議論をジェームズマーチの両利きの経営フレームワークに整理します。
図-4 専用スジアム化とまちなか立地の関係
専用スタジアム化は「知の深化」の軸(横軸)、まちなか立地は「知の探索」の軸(縦軸)と捉えられます。経営科学の研究では、日本の企業は横軸(知の深化)が得意とされており、それは強みでもありながら弱みでもあります。国内のスタジアム整備は、「知の深化」に偏りがちで、ステークホルダーがサッカーファンに限られるスポーツ志向と言えます。今後の整備では、「知の探索」、つまりまちなか立地という新たな思考が必要であり、これによりステークホルダーはサッカーファン以外にも拡大され、コミュニティ志向が付加されます。これによって両軸志向を持ち、競争優位性を確保する鍵となるでしょう。
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