NiX JAPAN株式会社 NiX JAPAN株式会社

2023年11月20日

オフィスの駅前移転はエコ通勤や仕事への意欲を高めるのか②

5.オフィス移転前後の比較

(1)エコ通勤割合の変化

オフィス移転前後でのエコ通勤割合について比較を行った.図-3より,イグレスに変化があった移転群は,エコ通勤の割合が大幅に増加し,イグレスに変化がない非移転群は,変化が無いことが示されている.

図-3 エコ通勤割合の集計結果

表-1 エコ通勤割合に関する平均値の差の検定結果

平均値の差の検定結果(表-1)から,移転群では,移転前後で,エコ通勤割合が有意に増加しており,非移転群では,移転前後で,エコ通勤割合に有意差が無いことが分かる.移転群と非移転群の検定では,移転前には,イグレスの小さい非移転群のエコ通勤割合が有意に大きくなっていたが,移転後では有意差はなくなっている.

また,移転前後の変化量に関しても,移転群の方が有意に大きくなっている.

(2) 仕事への意欲の変化

「仕事への意欲」について,移転群は若干向上しているが,非移転群においては,有意に低下している(図-4).また,移転後においては,移転群の方が仕事への意欲が有意に高い(表-2).仕事への意欲に関しては,アンケート調査実施時の社会情勢や,気候,企業の経営状況等,様々な外的要因や,自身の仕事の状況等,内的要因にも影響を受ける.内的要因は個人間で異なるものの,外的要因は,同じ職場にいる従業員,すなわち,移転群と非移転群に共通する事象である.これを踏まえると,移転群の仕事への意欲が維持され,非移転群において有意に低下していること,さらには,移転後に両群で有意差が生じていることから,移転が仕事への意欲に何らかの影響を与えていることが推察される.

一般的に,仕事への意欲は,アンケート調査実施時の社会情勢や,気候,企業の経営状況等,様々な外的要因や,自身の仕事の状況等,内的要因にも影響を受ける.また,本ケースはCOVID-19の影響も考えられる.2019年に実施された移転前のアンケートは,COVID-19の影響前に実施されている.一方で,移転後のアンケートは,2021年3月のCOVID-19の感染状況が悪化傾向にある時期に実施されており,非移転群の仕事への意欲の低下傾向は,これら外的要因による対象従業員全体の傾向を示していると考えられる.そのような社会情勢において,移転群の仕事への意欲が,わずかながら上昇していることは,外的要因に影響を受ける仕事への意欲の低下が,オフィス移転により抑制されたのではないかと推察できる.したがって,イグレスの短縮が,従業員のモチベーションに関連する仕事への意欲に正の影響を与えた可能性があると示唆される.

図-4 仕事への意欲の集計結果

 

表-2 仕事への意欲に関する平均値の差の検定結果

 

6.「仕事への意欲」に関する類型化分析

COVID-19による社会情勢変化の影響は被験者ごとに異なると考えられる.そこで,被験者を個人レベルで類型化し,仕事への意欲の程度の変化の把握を試みる.まず,移転前の仕事への意欲に関して,クラスター分析を用いて被験者の類型化を実施した.この際,クラスター数は,いくつかのクラスター数についてBICを算出し,BICが最も小さくなった,3に設定した.一変数での分類であるため,被験者は,仕事への意欲が高意欲・中意欲・低意欲の3つに分類された(図-5).

図-5 クラスター分析結果

表-3  所属クラスターの変化の集計結果

図-6 仕事への意欲の変化

つぎに,分類関数を求めるために,このクラスター分析の結果を用いて,判別分析を実施した.ここで得られた分類関数にしたがって,移転後の仕事への意欲により,被験者を分類した.移転前後のクラスターの変化を仕事への意欲の向上・低下・維持に分類し,移転群,非移転群のそれぞれで集計したものを表-3,図-6に示す.

仕事への意欲が向上した被験者の割合は,移転群で32%,非移転群で9%となり,移転群に多いことが示された.また,仕事への意欲が低下した被験者の割合は,移転群で24%,非移転群で36%となり,非移転群に多いことが示された.仕事への意欲を維持したカテゴリーで,高意欲を維持している割合は,移転群が28%,非移転群が13%となり,移転群の方が高水準を維持する傾向も示されている.

先述のように,COVID-19やその他社会情勢等,外的要因の影響により,移転の影響の有無にかかわらず,仕事への意欲が低下傾向にあると想定される.このような状況を踏まえたうえで,仕事への意欲が向上した被験者の割合が,移転群の方が高く,仕事への意欲が低下した被験者の割合が,移転群の方が低く,高意欲を維持している被験者の割合が,移転群の方が高いことから,移転によって仕事への意欲が高まることが示唆されていると考えられる.

7.結論

本研究では,オフィス移転によるイグレスの短縮がエコ通勤割合と,仕事への意欲に及ぼす,正の影響を,様々な統計解析の結果により示すことができた.地域企業経営において,公共交通サービスレベルが高い地域への,オフィス移転の有効性を示したことは,本研究における実務的示唆であると考える.

また,駅周辺へのオフィス立地は,駅周辺の昼間人口増大に繋がり,課題である地域都市,特に駅周辺の衰退の抑制にもつながると考えられる.地域企業経営者は,一時的な費用の増加にとらわれることなく,中長期的な視点においてオフィスの立地を再考することが望ましいと考える.

※なお本稿は,下記論文を基に,本レポート用に内容を再整理したものであり,詳細は以下の文献を参照されたい.

市森友明, 西垣友貴, 山田忠史,「地域企業オフィスの立地のエコ通勤や仕事の意欲に及ぼす影響」, グローバルビジネス学会,2022年「研究発表会」セッション3;ビジネス一般.

参考文献

[1] 市森友明, 西垣友貴, 山田忠史,「地域志向とエコ通勤に着目した地域企業の 社会的課題解決とワークモチベーション向上の 両立可能性に関する研究」, グローバルビジネスジャーナル, 7(1), pp44-55,2021.

 

プロフィール

市森友明 京都大学博士(経営科学)
技術士(建設部門・総合技術監理部門)

NiXグループ代表、NiX JAPAN 株式会社代表取締役社長。
京都大学工学部卒業・同大学経営管理大学院博士後期課程修了。

大手ゼネコン勤務を経て、2003年に入社。2006年7月から現職を務める。国内社会インフラの計画・設計、都市計画、小水力発電開発、およびインドネシア・シンガポール現地法人にて、再生可能エネルギー事業(水力・メガソーラー)を実施中。

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