2023年5月16日

オフィスの駅前移転はエコ通勤や仕事への意欲を高めるのか①

以前、私の博士論文の論点をご紹介、と申し上げましたが、その一部を3回に分けてご紹介します。

論文の中心は4章ですが、会社と駅の距離をテーマとした5章を先にご紹介します。

詳しくは、グローバルビジネス学会の、下記リンクをご覧ください。

グローバルビジネス学会 地域企業オフィスの立地の エコ通勤や仕事への意欲に及ぼす影響 

 

1.はじめに

地域社会における過度な自動車への依存は,地域企業勤務者の通勤交通における自動車分担率の高さが主要因であり,一部の地域では80%を超える分担率となっている.また,地域企業は公共交通サービスレベルが低く,地価が安価な郊外に,オフィスや工場を立地している場合が多く,自動車利用を促進する状況にある.公共交通サービスレベルの高い地域は一般的に地価や賃料が高く,企業はそのオフィス立地費用に見合う収益が求められる.

このように,エコ通勤を促進するために公共交通サービスレベルが高い地域にオフィスを立地することは,高コストであり,企業利益とはトレードオフの関係であると認識されている.一方,市森ら1)による先行研究は,イグレス(最寄り駅から職場までの区間)の所要時間(以後,“イグレスの所要時間”を単に“イグレス”と呼称する)の短縮が,企業業績に関連するワークモチベーションの一つである,地域志向的モチベーションを向上させ得ることを示唆した(図-1).

そこで,本稿では,NiX JAPAN本社が郊外(呉羽地域)から富山駅周辺へオフィスを移転した機会を捉え,オフィス移転にともなう,通勤手段の変化と,仕事への意欲などの諸因子の変化を調査し,移転の効果を分析する.

図-1 イグレスと公共交通・ワークモチベーションの関係

2.本調査について

図-1は全国の地域(政令地方都市未満)企業勤務者と都市(東京23区,および,大阪市)企業勤務者を対象としたアンケート調査(n=1,550)より得られた因果関係である.一方で実際の駅前移転によるイグレスの変化を捉えるには,勤務地が変わる,勤務地周辺の公共交通網に変化が生じるなど,大規模な社会環境変化が必要になる.ここでいう勤務地が変わるというのは,社内異動や転職に伴うものではなく,勤務している企業のオフィス移転などが対象となる.なぜなら,異動や転職の場合,業務内容にも変化が伴うため,イグレスの影響のみを抽出するのが困難になるためである.このことから,実際のイグレスの変化がワークモチベーションの変化に与える影響を考究するのは容易ではない.オフィスの移転に関する研究においては,オフィス移転の機会を捉えて,従業員の態度変容や行動変容を調査した研究や,イグレスに関する研究は筆者の知る限り見当たらない.本稿では,実際のオフィス移転と,態度や行動の変容との関係について分析を行うものであり,この研究の新規性であり,かつ貴重な調査結果となると考える.

3.調査対象について

当社は2019年10月,本社を郊外から多くの公共交通機関の結節点となる富山駅近辺へ移転した.新本社オフィス(以下新本社)は,富山駅から,距離0.7km,徒歩8分に位置し,当該駅は,鉄道2路線,路面電車3路線,バス,タクシー等の複数の交通機関の結節点であり,公共交通サービスレベルが極めて高い立地といえる.

図-2 新旧オフィスの位置関係

当社は移転以前に,富山駅近郊(新本社から約200mの距離)にもオフィスがあり,旧本社(呉羽地域)を上回る数の従業員が勤務していた.その従業員も,新本社に移転するが,富山駅からの距離の変化(所要時間の変化)が殆どないことから,イグレスの変化がないと考えることができる.すなわち,本ケースは,一地域企業において,イグレスが変化した従業員と,イグレスが変化しない従業員が対象となるため,イグレスの変化による影響を分析できる極めて稀なケースであると考える.

 

4.分析方法と調査概要

オフィス移転前後でのアンケート結果を使用する.イグレスに変化がある移転群(呉羽⇒新本社)と,イグレスに変化が無い非移転群(旧富山駅前ビル⇒新本社)との比較により,移転の影響を分析する.具体的には,回答結果を用いた因子分析の結果から得られる,諸因子の平均値や,エコ通勤割合の差の検定を実施するとともに,仕事への意欲については,類型化分析を用いることで,個人レベルの変化についての考察も加えている.

オフィス移転前となる2019年10月2日~同7日,および,オフィス移転後の2021年3月16日~同23日に,ほぼ同じ内容のアンケート調査を実施している.なお,移転前のアンケートは,市森ら1)の研究で用いているものと同じ調査となっている.アンケート調査の回答者は,移転群が26名(27%),非移転群が70名(73%),男性が58名(67%),女性が29名(33%)である.

▶次回に続く

 

プロフィール

市森友明 京都大学博士(経営科学)
技術士(建設部門・総合技術監理部門)

NiXグループ代表、NiX JAPAN 株式会社代表取締役社長。
京都大学工学部卒業・同大学経営管理大学院博士後期課程修了。

大手ゼネコン勤務を経て、2003年に入社。2006年7月から現職を務める。国内社会インフラの計画・設計、都市計画、小水力発電開発、およびインドネシア・シンガポール現地法人にて、再生可能エネルギー事業(水力・メガソーラー)を実施中。

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