建設コンサルタントは土木設計や測量といった業種で呼ばれています。一方でコンサルタント職業は一般に経営コンサルタントといわれるように、「コンサルタント=相談」という使われ方が一般的であり、建設コンサルタントという名称は少し違和感を覚えられる方も多いと思います。
建設コンサルタントの定義は、コンサルタントあるいはコンサルティング・エンジニアのうち、建設を専門とするものを建設コンサルタントと呼んでいます。職業としてのコンサルティング・エンジニアは、イギリス人James Brindley(1716-72)とJohn Smeaton(1724-92)が運河建設にコンサルティング・エンジニアとして活躍したことが始まりといわれています。産業革命時代に始まるこのコンサルティング・エンジニアの理念は「個人」レベルの師弟関係に基づいており、企業ではありません。イギリスにおいては個人・企業協会が1913年、企業協会が1965年に設立され、建設コンサルタントとしての職業・企業が形成されています。わが国のコンサルティング・エンジニアが職業として発足したのは1950年頃であり、イギリスから比べると180年も遅れており、歴史の浅い産業であります。特に戦前は官庁のインハウスエンジニアの体制が強力でありましたが、1950年以降になって高度成長という社会経済的需要の存在により、職業・産業としてその存在が認められるようになりました(石井,2003)。
このような発足に至る経緯により、戦後復興・高度成長という特殊事情において官庁技術者の量的不足を補おうという「お手伝い的」立場が当初の建設コンサルタントの役割であり、欧米のコンサルティング・エンジニアのような「技術的パートナー」としての役割は果たしていませんでした。それからは、現在の大手のコンサルタント企業を中心として、欧米コンサルタント並みの技術的パートナーにわが国のコンサルティング・エンジニアは成長を遂げられています。
しかしながら、地域のコンサルティング・エンジニアはその領域に達している企業や技術者は少なく、発注者のお手伝いとしての領域から抜け出ていないと言えます。この理由は上述してきたように、わが国のコンサルティング・エンジニアの成り立ちと、まじめではあるが消極的であったり閉鎖的であったりする地域人材の特性が影響しているのです。
また、地域のエンジニアは自身の役割を「土木設計業」であると定義しています。これは構造計算・図面作成・数量計算等ができる職業ということであり、それがコンサルティング・エンジニアであると勘違いしていることも事実であり、当社も例外ではありません。構造計算や図面作成・数量計算はお手伝い的領域、すなわち「土木設計業」であり、プランニングストーリーといわれる設計思想や考え方や、発注者の要求レベル超えるサービスや、考えていなかったリスクの発見とマネジメントなど、社会資本整備の計画・設計業において、トータルマネジメントを提供することが「技術サービス業」である、ということです。
この違いは事業ドメイン(領域)の定義において、「土木設計業」なのか、「技術サービス業」なのかの違いによるものともいえるでしょう。米国では以前、鉄道産業は、輸送需要が伸びているにも関わらす、その需要を航空産業や乗用車、トラックに奪われ衰退しました。それは鉄道会社が自身の事業ドメインを「鉄道事業」とし、「輸送事業」としなかったために顧客を奪われたそうです。ハリウッドの映画産業も同様で、「映画事業」ではなく「エンターテイメント事業」と事業ドメインを定義できなかったことで、その需要をテレビ業界に奪われて衰退していくのです。建設コンサルタントもその事業ドメインを物理的定義である「土木設計業」とするのか、機能的定義である「技術サービス業」とするのかで、仕事のやり方そのものが変わってきますし、コンサルティング・エンジニアとして要求される能力や要件も変わってくるのです。したがって、我々は「社会資本整備を企画するお客様を満足させる技術サービスを提供する職業」を実践しており、それにより対価を得ていると、自らを定義しなおすべきでしょう。NiXは「技術サービス業」を事業ドメインとしており、そのようなサービスを提供できるコンサルティング・エンジニアの集団であるべく、日々努力していきます。
引用文献:石井弓夫(2003).わが国における建設コンサルタント産業の形成過程に関する研究
NiX JAPAN 株式会社 | NiX 管理本部 経営企画管理グループ
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