Engineer's Voice vol.09

RC床版の土砂化に対する診断 電磁波レーダー等、新技術を活用したコンクリート床板診断

非破壊検査技術による早期劣化検出をめざして

今回の業務内容と課題は?

国立研究開発法人土木研究所が実施している、AIを活用した道路橋メンテナンスの効率化に関する共同研究の一環として、実橋梁(富山市内5橋)を使用し、新技術を含む非破壊検査を行ったのち舗装を開削して、検査結果による診断と実際の劣化状況との検証を行なう業務に携わりました。

本業務の調査で対象としている橋梁のコンクリート床版(以下RC床版)における土砂化(コンクリートが骨材とモルタルに分離する、あるいはセメントペースト部分が消失して骨材が露出する現象で砂利化とも呼ばれる)は、内部の劣化の進行を外観の特徴から判断することが難しい一方で、突如舗装の抜け落ちに至り重大な第三者被害となるリスクを有しており、点検・調査による劣化の早期検出技術が求められています。

レーダー調査結果や環境条件等を考慮して、土砂化に至る劣化機構の推定をいかに行うかが課題でした。

課題に対しての着眼点、実施した調査内容とは?

土砂化は、様々な条件下での複合劣化であり、表のように進展すると考えられます。

劣化の進展イメージ 状況 劣化の要因 着眼点
STEP-1
舗装ひび割れ
舗装にひび割れが発生し、雨水や凍結防止剤を含んだ塩分が浸透する。 ・舗装のひび割れ
・舗装の打ち継ぎ目地
・舗装の種類
・ひび割れ幅
・ボットホール
・舗装補修履歴
STEP-2
滞水
防水層が損傷し、床版上面に水分(塩分)が滞水する ・防水層の劣化、破断 ・防水層の種類
・舗装と床版の密着度
・排水状況
STEP-3
疲労破壊
大型車両の輪荷重により床版表面の劣化が進展する。また、床版中に塩分が拡散し鉄筋の腐食が始まる。 ・大型車の輪荷重
・浸透塩分
・大型車交通量
・コンクリート強度
・凍結防止剤散布量
・鉄筋腐食度
STEP-4
土砂化の進展
上面の土砂化と鉄筋膨張による浮き、凍害等の複合劣化により土砂化が進展する。 ・凍害
・かぶり不足
・ASR
・気象データ
・鉄筋被り厚
・鉄筋量
・土砂化深さ
・材料試験
・床版下面状況

コンクリートの圧縮疲労強度は水中においては著しく低下します。
水が損傷メカニズムに大きく影響することから、帯水状況の検出に着目するほか、環境・交通条件、補修履歴、排水状況などを整理した上で、現地では以下の作業を行いました。

  1. ①車載式電磁波レーダー
    [NETIS CB-150004-VE](事前計測)
  2. ②共同研究参画各社の非破壊調査
  3. ③中性子水分計調査
    (日立パワーソリューションズ社製 配管検査用を道路向けに構造変更)
  4. ④舗装開削(一部路面切削機使用)
  5. ⑤床版上面確認(防水層、土砂化・帯水)
  6. ⑥小径微破壊コンクリート内部検査
    (Single i工法)[NETIS HK-150004-A]
  7. ⑦コンクリートコア削孔、鉄筋腐食調査
  8. ⑧床版下面目視調査、含水率調査

実施結果について

事前に調査した電磁波レーダー結果や橋梁条件による違いに対し、土砂化の進展具合の差が確認できました。
また、既往の検証事例では補修工事段階でのレーダー計測、開削調査だったものに対し、外観の劣化の有無に関わらず帯水等が疑われる橋梁について調査を実施したことによって劣化の初期段階を想定した検証事例が蓄積されたと言えます。
中性子水分計による調査は、降雨降雪、温度湿度の影響を排除できたもののアスファルト中の水分量とRC床版中の水分量の判別に課題が見られ、小径微破壊コンクリート内部検査は、RC床版内部の水平ひびわれが現地にてリアルタイムに確認できたほか、注入剤の付着によりコンクリートの劣化を確認でき、床版内部における土砂化の検知の可能性を確認できました。

技術者としての思い : 今後の展望について

今回調査を行った橋梁は、環境条件が違うとはいえ僅かに5橋です。今後、さらにデータを蓄積し、検証を行っていく必要があると考えます。土木研究所の共同研究としては2021年の、AI技術による劣化促進要因の早期検出、劣化に至るまでの各種要因と劣化の相関の解明まで続いていきます。
業務内では共同研究参画各社の調査技術の実施支援のほか、事務局としてワーキンググループの運営補助も行いました。今後も調査・診断技術の向上によるメンテナンスサイクルにおける信頼性向上へ貢献できる業務に携われるよう日々研鑽に努めたいと考えます。

Engineer's Voice
上坂 光泰

建設コンサルタントに従事して17年。道路、道路構造物設計に従事。 近年は橋梁に関する点検、補修業務等、技術の幅を広げつつ更なる技術力向上を目指す。 昭和55年富山県生まれ、滑川市在住。