Engineer’s Voice vol.07

ロッキング橋脚の耐震補強設計 必要最小限の補強で大規模地震による倒壊を防ぐ

三次元立体モデルの非線形動的解析による耐震補強

『落橋しない橋を目指して』 今回の業務内容と課題は?

橋梁などの新設構造物の設計や既設構造物の補修・補強設計を行っています。
2016年に発生した熊本地震ではロッキング橋脚の被災が大きく取り上げられました。
今回はロッキング橋脚を有する橋梁の耐震設計に携わる機会がありましたので紹介させていただきます。

ロッキング橋脚を有する橋梁(橋台F+ロッキング橋脚M+橋台M)は、地震時安定性を橋台固定部に依存した構造であるため、想定以上の地震力が作用し、両橋台の支点が水平方向に変位すると、ロッキング橋脚に傾斜が生じて倒壊に至ります。今回の業務では、全体をラーメン構造とすることで、想定以上の地震力が作用しても橋梁全体の急激な耐力低下が生じない冗長性を有する構造としました。

強箇所は高速道路本線からの施工となるのですが、交通量が非常に多く、長期間の固定規制は条件的に不可能でした。よって、なるべく規制期間を減らすため、補強の範囲を最小限の範囲とする必要があり、特に基礎の補強は現実的ではないため、基礎を補強しない補強方法を採用することが重要でした。

課題に対して、苦労・工夫した点

前項の課題に対して以下の項目について検討をしました。

①解析手法

解析は、3次元立体系モデルによる非線形動的解析を行いました。その際に、橋梁の特徴を踏まえて、橋台背面バネ・土圧や橋脚土中部の地盤バネ等をモデル化しました。様々なトライアル計算の結果、基礎は耐力を満足し、補強が不要となりました。橋台は竪壁前面にRC増厚を行い、上部工下面に鉄筋を定着させて固定化しました。橋脚は橋脚単体でも自立できる構造とするため、ロッキングカラム部のRC巻立てを行い、更に床版下面に鉄筋を定着させ剛結または固定化しました。

②施工計画/h4>
施工は日毎解放が可能となるように、移動可能なプラントや小型の重機を用いて行うように計画しました。

③新工法の採用/h4>
橋台竪壁部のせん断耐力が不足し補強が必要となったのですが、最小限の掘削範囲で補強するため、構造物の前面から施工可能である、あと施工せん断補強工を採用しました。

技術者としての思い:今後の取り組みについて

今回の業務を通じて、ロッキング橋脚を有する橋梁の耐震補強に関して考慮すべき点や解析手法のノウハウを蓄積できました。特に橋台の補強は橋梁の耐震補強ではあまり経験のないことでしたので今後の設計に生かせると考えています。

既設構造物の耐震補強は、既設構造物の構造特性(応力集中箇所など)、過去および現在の基準、架橋位置の状況、施工スペースの有無など様々な角度からの検討を行い、補強工法を決定する必要があります。知っていると知らないでは結果にたどり着く時間に差があり、知っていればその差の時間で更なる良い提案ができる可能性があります。

今後はこの経験を生かして、さらに良い提案ができるよう努力したいと考えています。

Engineer's Voice
丸山 貴弘

建設コンサルタントに従事して15年。これまで橋梁設計、橋梁耐震補強設計、橋梁点検・補修設計、道路構造物設計の業務に従事。近年は橋梁に関する補強・補修や点検等の業務の管理および設計に携わり、技術の幅を拡げつつ更なる技術向上を目指す。 昭和53年静岡県生まれ、埼玉県在住。山梨大学大学院土木環境工学専攻卒